Annual Review
No.10 2008.5
 リサーチダイジェスト
高齢化社会における鉄道輸送とバスアクセスに関する調査・研究
神戸市立工業高等専門学校 都市工学科 教授 橋本 渉一
1.はじめに
 都市圏における鉄道は,通勤通学輸送はもとより日常の旅客輸送に重要な役割を果たしており,高齢社会における社会活動,モビリティを支援する公共交通機関としての役割を担っている。鉄道が広く利用される公共交通機関であるための条件として,駅(交通結節点)への他交通機関のアクセスが確保されることがある。特に鉄道と並ぶ代表的公共交通であるバス輸送からの連続性,鉄道に対するフィーダー機能が期待される。
  本研究は既存の関係資料を調査することにより,国内におけるバス輸送を取り巻く環境を明らかにし,鉄道輸送との関わりを検討することを目的とする。
2.公共交通,バス輸送を取り巻く状況
 代表的公共交通である鉄道およびバスの,三大都市圏,地方圏における輸送人員の昭和50年の輸送人員を100とした推移を図1,2に示す。鉄道輸送はこの30年間で地方圏では13%減少したものの,三大都市圏では30%以上の増加を示し,全国では20%以上の増加を示している。これに対しバス輸送では地方圏では約40%,三大都市圏では約60%に減少を示し,全国では約50%の減少を示している。
図1 鉄道輸送人員の推移 図2 バス輸送人員の推移
 国内の交通機関分担率の推移は図3に示す通り,1960~2004年の44年間で公共交通全体の輸送人員に大きい変化はないが,1960年代から社会経済の発展と相応して増加してきた旅客トリップ需要は自動車交通が吸収し現在は約60%となっている。2002年以降の総輸送人員は横這い状態から僅かな減少傾向を示している。
  現在約40%を占める公共交通のシェアはこの内,鉄道で30%強,バスで10%弱を分担している。近年鉄道輸送は輸送人員を若干増加させ,これとは逆にバス輸送は減少を示しこの44年間で46%に減少し,現在でも全国合計で僅かな減少傾向が見られる。
  全国のバス系統数の推移は図4に示す通り,平成に入り15年間で約90%に減少したが,最近5年間では安定した状態である。貸切バスを除いた乗合バスの輸送人員は図5に示す通り毎年度平均2.7%の 減少を示すなか,輸送人キロおよび平均輸送距離は図6に示すようにここ数年増加傾向を示している。これは輸送距離の長い高速バス輸送が好調であるためと考えられる。
  市街地規模別のバス輸送の状況は以下の通りである。
図3 国内交通機関分担率の推移 図4 バス系統数の推移
(1) 大都市圏
 東京, 大阪の大都市圏において鉄軌道が公共交通機関として大きな役割を担っており,バスは住宅地と鉄道駅間の輸送、都市内部で鉄軌道を補完する機能を果たしている。鉄軌道と連携して都市生活に不可欠な交通機関として機能することが期待される。旅客数も多く収益性も高いことから比較的密度の高いバス路線網が維持されている。市街地の自家用車普及率が地方都市と比べ高くないこと,最近の都心回帰の動きもあり輸送人員は下げ止まりの傾向が見られている。
(2) 地方都市
 県庁所在地や地方拠点都市等では,自家用車との競合も大きいがバス交通が公共交通機関の中心的役割を果たしている地域も多い。バス利用の状況は、収益性の高い路線を中核とした路線網を維持することができるか,収益性のある路線が限られ路線網維持のために公的補助が必要となるかなど,都市の環境条件により大きく異なっている。最近の状況は,いずれの都市においても自家用車の利用度が更に増加傾向にあり,バスの輸送人員は減少傾向となっている。
図5 輸送人員と人キロ 図6 平均輸送キロ
(3) 地方部
 過疎地等の地方部においては自家用車への依存度が極めて高く、バスは主として高齢者や学生に利用されている。バス利用者の絶対数は少なく,自家用車の普及・人口の減少・少子高齢化の影響を受け、バス利用者の減少傾向が続いている。路線網を維持するには,公的支援が不可欠な状況となっている。
3.公共交通利用に対する意識
 図7に示す内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」によると,外出時の障害となる事項として「バスや電車等公共の交通機関が利用しにくい」「バスや電車等公共の交通機関が未整備」の回答割合は都市規模が小さくなるほど高くなっている。地方圏における自家用車の普及により公共交通の輸送人員が減少することにより,公共交通事業者の経営を圧迫し全国的に見て鉄道路線の廃止,バス系統数の減少が見られ,高齢者等の足の確保が大きな問題となっている。
図7 外出時の障害
この背景は以下の通りである。
①自家用車の普及と道路網の整備による,バス利用の低下。
②道路交通の混雑による表定速度の低下、不確実な運行ダイヤによる,バス選択の回避。
③他公共交通機関(地下鉄・モノレール・新交通)の整備による,バス輸送からの転換。
④ 2002 年2 月の「道路運送法」一部改正の法的規制の緩和により,バス路線への新規参入,赤字路線から
  の撤退が容易となった。
⑤特に地方都市における、バス事業の上記緩和に伴い赤字路線からの撤退が進み,利用者の減少→運行
  数の減少→利用機会の減少の悪循環発生の傾向が見られる。
  上記情勢のなかで国によりバス事業への助成制度が設けられ,1997 年に「オムニバスタウン構想」が提唱され,バス事業活性化対策の目的としては,市街地の活性化,高齢者への福祉サービスが位置づけられ,地方自治体がバス交通政策に積極的に関わることが打ちだされ,地域交通政策としてバス交通の活性化が求められている。
4.コミュニティバスの普及
 市街地あるいは都市周辺地区において乗合バスの運行路線でカバーされていない,あるいは撤退した地域では,公共交通の恩恵に浴することなく,特に高齢者や身体障害者等の移動に多くの困難が見られる。この場合の公共施設・医療機関への足の確保,日常の生活圏内の拡大を目的とし, 多くは小型バスで運行されている地域住民のための路線バスをコミュニティバスと呼んでいる。これらは地方公共団体が直接に運行する,あるいは補助をするなど何らかの形で運行に関与していることが多い。
  コミュニティバスは、既存のバス事業者が運行するもの,貸切バス事業者が運行するもの,地方自治体が運行するものなどがある。沿線住民が路線の設定等、運行計画に当初から関与していく例も多く見られる。1980年代から運行が始められ,現在では全国の大多数の市町で運行されている。
  この中でも武蔵野市におけるムーバス,金沢市における金沢ふらっとバス,京都市醍醐地区の醍醐コミュニティバスなどが良く知られている。金沢では斬新な車体が使用され、商店街のトランジットモール内も走行するなど、注目を浴びている。
図8 専用レーン等の設置状況
5.優先レーン等の設置
 道路交通法で定められているバスレーンに「バス専用レーン」と「バス優先レーン」があるが,その多くは朝夕のラッシュ時間帯にのみ設定されている。
「バス専用レーン」は基本的には路線バスのみが通行可能で,それ以外の一般車通行は禁止されている。「バス優先レーン」は路線バス以外の車両も走行することができるが,路線バスの接近時には速やかに優先レーンより出なければならない。渋滞により路線バスが接近した時に出ることができない時間帯には優先レーンを通行することが禁止されている。
  図8に示すように専用レーン等の延長は2500km を超え,公共交通として運転ダイヤを守り利用者の
支持が得られるよう一般道を走行するバスに走行優先権が与えられている。
6.バスのバリアフリー化
 高齢者をはじめ移動制約者の交通手段としてバスは重要な役割を果たしている。これから高齢化の進む地域で高齢者の外出手段を確保することは,高齢者の社会参加を維持する上で重要であり,特に人口の減少や高齢化比率の上昇の進む地方部においては,地域社会そのものを維持するという役割も持っている。
  公共交通機関や建築物等のバリアフリー化、一定地域内の施設等を相互連絡し連続的なバリアフリー化を促進するため、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(「バリアフリー新法」)が平成18 年12 月から施行されている。税制上の特例措置や融資を行うなどノンステップバス等の導入を進めバリアフリー化を進めること,高齢者に対する割引制度等を維持・充実させること等により,超高齢化社会における移動手段の利用可能性を確保する必要があると考えられている。
  高齢者の移動の円滑化を図るため、駅・空港等の公共交通ターミナルのエレベーター設置等の高齢者の利用に配慮した施設の整備、ノンステップバス等の車両の導入などが推進された結果,「交通バリアフリー法」に基ずく移動円滑化基準への適合性は表1に示す通り2006 年度末で,バスターミナルは75%,低床バスおよびノンステップバス合わせて43%を超えた状況であり,さらにバリアフリー化を進めていくことが,社会的に求められている。
 
表1 輸送機関のバリアフリー化状況(平成18 年度末)
 
7.鉄道とバスの連携
 都市内の鉄道路線と駅で接続するバス路線網の関係を明らかにするため,都内および神戸市内のJR線の駅を対象として調査を行なった。中央線の東京・吉祥寺・三鷹・立川駅,山陽本線の三ノ宮駅におけるバス系統数と1日平均乗降人員の関係を図9に示す。1系統あたりの乗降人員がほぼ1000 人となっている。神戸市内のJR各駅における神戸市営バス系統数と1日平均乗降人員の関係は図10 に示す通り,1系統あたりの乗降人員は約750 人である。
  以上のように,バスの1系統あたりの各駅の乗降人員には相関関係が認められる。
   図9 東京・神戸主要駅のバス接続 図10 神戸市内JR 駅の市営バス接続
図11 神戸JR駅のバス接続数
 神戸市内JR駅に接続している市営バスの路線数を図11 に示す。市内主要ターミナルで他鉄道との接続もあり北部郊外からのトリップの多い三ノ宮,神戸駅,東部の住居地域から集まる住吉,六甲道駅,西部の住居地域から集まる垂水駅にはバス路線が多く接続している。
  一方,周辺住居地域を持ち私鉄駅が隣接しているにもかかわらず,駅への道路幅員が狭くバス走行が困難な塩屋駅ではバス運行が行なわれていない。住居地域の住民はバス接続のある隣接駅を利用しているものと考えられる。
8.まとめ
 わが国における経済成長に伴うこの約50 年間のパーソントリップの急速な増加は,自動車交通でその大半を吸収してきた。21 世紀を迎え総人口の減少,高齢社会への移行期である現在,公共交通機関で通勤通学輸送および社会活動を支援できる都市機能が期待されている。
  地方都市では今後とも自動車利用の増加が予想されているが,大都市ではバス利用者数の減少傾向は鈍化しほぼ一定の傾向を示している。外出時の不便理由に公共交通の不便性を理由とする割合は相変わらず高く,専用レーン等の設置による運行ダイアの確保,バリアフリー車両の普及などによる利便性の向上も図られている。
  データ上から鉄道駅に接続するバス路線数と乗降客数の関係には明確な相関が見られ,両交通機関のシームレス化をより一層高めることが期待され,鉄道側から見た利用者数の増加に寄与するものと考えられる。公共交通の利用者に対する利便性を高めるには,相互のシームレス化・接続性を上げることが重要と考えられる。
  今回の調査研究では,バス・鉄道の接続に対する利用者の意識調査データが得られず,この面からの調査が今後の課題であると考えられる。
【 参考文献 】
 1)国土交通省「国土交通白書2007」2007.5
 2)運輸政策研究機構「平成17 都市交通年報」2006.3
 3)運輸政策研究機構「平成17 地域交通年報」2006.8
 4)まちづくりと交通プランニング研究会「高齢社会と都市のモビリティ」2004.9,学芸出版社
 5)中村文彦「バスでまちづくり」2006.10,学芸出版社
 6)国土交通省「今後のバスサービス活性化方策検討小委員会報告書」2007.6,交通政策審議会陸上交
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