Annual Review
No.9 2007.5
 リサーチダイジェスト
地盤工学における最新の海外研究の動向調査概要
東洋大学工学部環境建設学科 教授 須長 誠
1.調査目的
 鉄道のガイドウェイである線路構造物において地盤工学に関係するものとしては、例えば、土構造物、抗土圧構造物、基礎構造物、地盤改良、環境保全などが挙げられる。鉄道では鉄道荷重の作用が大きい路盤や、鉄道に求められる厳しい許容変位での研究などは独占的に研究をする傾向が強いが、その他は独自の研究を軸として共同研究あるいは地盤工学の専門家に研究委託するなど、必要に応じた幅広い研究体制のもとで研究を行っている。したがって地盤工学の研究状況を常に調査し、鉄道に活用できる部分、あるいは鉄道で独自に研究するための発端となる部分を把握することは重要と考えられる。また鉄道独自で研究を行っている部分でも、地盤工学の一般研究より新たな見地を得る場合などがあり、文献による研究動向調査は大切である。
  ここでは公開されている海外の研究論文のうち、地盤工学に関する代表的な論文集を取りあげ、論文のタイトルと抄訳により、最新の研究動向を調査し、鉄道の研究に資することを目的とする。
2.調査内容
  1. 対象とする地盤工学の論文集は、欧州の代表としてイギリスの「Geotechnique」、アメリカの代表としてASCE(American Society of Civil Engineers)の「Journal of Geotechnical and Geoenvironmental Engineering」とした(以下、ASCE と略す)。
  2. 調査対象期間は2005 年度(2005.4 ~ 2006.3)の1 年間とした。但しGeotechnique は毎月発刊ではなく1 月号と7 月号は発刊されていない。
  3. 全論文についてタイトルの和訳、抄録、掲載頁、掲載時期等を付記した。
3.調査結果
 論文数はGeotechnique の場合は74 編であり、ASCE の場合は154 編の計228 編である。これらの論文を抄録し、文献に掲載されているキーワードをもとに文献内容の分類を行った。分類は大分類、中分類、小分類の3つに行った。中、小分類は本文に掲載した。分類において1 つのキーワードで本文紹介を行うのは難しいことより、基本的に1 文献につき3 つのキーワードで表すことにしたが、重複する内容のキーワードが多い文献には2つのキーワードで整理した。このため抄録した文献数とキーワードで整理した文献数はことなる(基本的には文献数の3 倍がキーワードで整理した件数になる)。
  ASCE の大分類表を表1 に示し、Geotechnique の大分類表を表2に示す。また分類表を円グラフとして示したものを図1、2 に示す。ASCE と Geotechnique の文献を分類すると、Geotechnique には地震関係の論文がASCE と比べて少ないことがわかる。またASCE は我が国と同じように砂の液状化や地震応答解析に関するものが多く投稿されている。
  さらにASCE には我が国の鉄道でも多く研究あるいは開発されているジオテキスタイル・補強土や、KR-017 リサーチ・ダイジェスト最近の環境問題を反映して廃棄物・リサイクル・汚染の分野が目立つ。しかしGeotechnique にはこれらの分野が投稿されていない。この意味でもASCE の方が我が国の鉄道部門に活用できる文献が多いと思われる。
  鉄道そのものの研究では文献数228 編のうち、Geotechnique にわずか1 編(バラストの研究)あるだけで、2 編は鉄道トンネルと地下鉄に関連するものであった。
表1 ASCEのキーワードによる分類 表2  Geotechniqueのキーワードによる分類
   図1 ASCEのキーワードによる分類図     図2  Geotechniqueのキーワードによる分類図