Annual Review
No.7 2005.5
 リサーチダイジェスト
視覚障害者誘導用ブロックの駅への敷設ルールの現状と国際標準化の動向
徳島大学大学院工学研究科エコシステム工学専攻 教授 末田 統
1.はじめに
 視覚障害者誘導用ブロック(いわゆる点字ブロック)は、視覚障害者の自立活動を支援する社会基盤整備の一つとして1967 年に岡山県立盲学校近くの横断歩道口に初めて敷設されて以来、道路、病院、駅等の公共的空間への敷設が国、地方自治体、公共交通機関等により進められ、大都市圏の駅では、敷設率がほぼ100% にまで普及してきた。時には障害者対策の代名詞のように用いられ、他の障害者対策をおろそかにするのではないかという意見が出ることもあるが、他の障害者に比べ盲人の危険回避を含め、自立行動を支援する手だてが少ないことを理解すれば、社会基盤整備として推進することは当然であると言える。
 我が国を手本として、諸外国でも視覚障害者誘導・警告手段として歩行床面における触知表示器(TWSI : Tactile Walking Surface Indicator)が広く取り入れられるようになってきた。我が国から理念を取り入れた諸外国では、各国独特の誘導・警告のパターンを考案し、例えば英国では7種類のパターンが敷設されている。障害者の移動範囲の拡大(いわゆるグローバリゼーション)の観点からパターンの統一化が求められ、1988 年から国際標準化機構(ISO)のISO/TC173(リハビリテーション機器)/SC4(コミュニケーション機器)の作業部会(WG7)において、敷設方法も含めた国際規格作りが進められてきた。その後、幹事国の怠慢から規格原案は2002 年6月に廃案となった。その後わが国が事務局を引き受け、2003 年11 月開催されたISO/TC173 総会で小生が議長に指名され、WG7 が再生し、活動を開始した。本調査報告書では、諸外国における実情調査結果とその後の国際規格化の動向について報告する。
2.海外の状況
 ISO/TC173/WG7 で現在取り扱っている点字ブロックの駅舎への敷設において、大きな課題の一つはプラットホーム縁端での敷設方法であり、もう一つはプラットホームにおける階段等からホーム縁端への誘導方法である。これまで、米国、カナダ、オランダ、オーストリア、フランス、イギリス、ドイツ、スウェーデン、スペイン、オーストラリア等を視察し、その違いを確認した。本報告では、カナダ、米国、オランダ、フランス、イギリス、スウェーデン、ドイツの駅舎における点字ブロックの敷設状況を紹介する。
 北米では、プラットホーム縁端からセットバック無しに警告ブロックが敷設されており、わが国やヨーロッパ、豪州の敷設方法と異なることが明らかになっている。また、階段からプラットホーム縁端までの誘導では、ドイツは誘導ブロックと、警告ブロックが同一であるなど、国際規格化の上で大きな課題があることが明らかになってきた。さらに、警告ブロックのパターンが線状であるドイツや、誘導ブロックの形状が正弦波状のうねりパターンを検討しているスエーデンなどパターンについても大きな隔たりが見られる。
3.国際規格化の動向
 視覚障害者の移動範囲の拡大(いわゆるグローバリゼーション)からパターンの統一化が求められ、1988 年から国際標準化機構(ISO)のISO/TC173/SC4/WG7 において、敷設方法も含めた国際規格作りが進められてきが、1995 年にカナダがSC4 幹事国を辞退し、その後、引き受け手がないために、SC4 は廃止となり、WG7 は親委員会であるISO/TC173 のアドホックの作業部会となった。しかし、1999 年の作業部会を最後に活動が停止し、その後、オーストリア事務局の怠慢が解消されないまま、事務局の辞退という状況となり、2002 年6月に開催された第9回ISO/TC173 総会においてISO/TC173/WG7 は休止となり、それまで審議されてきた点字ブロックの国際規格原案は廃案になった。
 今回、小生がコンビナート兼議長を引き受け、WG7 を再開し、新たな国際規格を作りを始めるにあたり課題は山積していることは明白である。その中でも大きな課題は次の二つである。一つ目は各国の点字ブロックのパターンが異なること。二つ目は点字ブロック敷設に対する基本的な考え方に大きな違いがあることである。各国の現状を反映させたのでは国際規格化は不可能であることは目に見えている。そこで、新たな基本方針を定めることにした。昨年10 月末に開催した第1回作業部会(京都会議)の冒頭で基本方針を各国のエキスパートに伝え規格作りをスタートした。今年1月末に開催した第2回作業部会(ストックホルム会議)でも冒頭に再度基本方針を伝え審議を開始した。各国の思惑が錯綜し、点字ブロックの規格案作りはスムーズとは言えないが、少しずつ着実に進められている。
 最大の課題である、北米と他の国々とのプラットホーム縁端への警告ブロックの敷設方法に違い(考え方の違い)については、米国ならびにカナダの了解を取り付け、他の多くの国々で採用されている方法の規格に一本化することになり、一つの山を越えた。点字ブロックのパターンの統一化についても、今後の大きな課題である、今年9月に開催される第3回作業部会(トロント会議)で審議が続けられることになっている。
4.終わりに
 今回の国際規格化を通して、わが国の狭小プラットホームにおける縁端警告ブロックの敷設が課題となっている。わが国でこれまで行われた研究からも60cm 以上の幅で警告ブロックを敷設する方が安全性を増すことが示されているが、東京都内の山手線などホーム先端部が狭小なプラットホームでの敷設幅の確保が不可能な実情がある。例外措置的な方法で現状是認が考えられているが、安全性の面からは別の手段も含め再考することが必要である。