Annual Review
No.6 2004.5

リサーチダイジェスト

列車形態と脱線時安全性の関連に関する研究

明星大学理工学部機械工学科 宮本 昌幸

1.目的
鉄道の安全については、長らく『いかに事故を起さないか』に主眼を置いて研究がなされてきた。その結果鉄道は他の乗り物と較べて格段に安全な乗り物となっている。しかし、事故を完全に無くすのは難しく、ある程度の確率のもとに事故は実際起きている。兵庫県南部地震は幸いにも6時前におこり、新幹線はまだ走行していなかったが、在来線の列車には脱線、転覆が生じた。より速度の速い新幹線の場合には状況によっては重大事故に発展する可能性も予想される。
 そこで、事故が起きた時に被害が拡大しないようにするにはどうすれば良いかとの視点も重要である。現在にいたるまで、脱線、転覆事故に関して、このような視点からの研究はほとんど行われてきていない。
 そこで本研究では、
(1) 過去の脱線、転覆事故の調査
(2) 模型実験による脱線後の事故形態に及ぼす車両、地上設備の影響の検討
(3) 計算機シミュレーションによる脱線後の事故形態に及ぼす車両、地上設備の影響の検討
の面からの調査、検討を進めることを目的としている。
 具体的イメージの例としては、車両の連結方法などで脱線後の事故拡大に差があるのか、トンネル、ホーム進入直前に脱線した列車をトンネル、ホームの壁面に激突させず、比較的軽微な損傷でトンネルやホームへ導く鉄道版防護柵、ガードレールの可能性、効果の推定などを念頭においている。
 本年度はその2年目で,昨年度の(1)(2)の検討に加えて主に(1)、(3)についての検討を行った。

2. まとめ
過去の脱線、転覆事故の調査
・ 分岐器のリードレールが車体を左右に大きく振る役目をしていて、事故拡大要因となった事例があった。
・ これは、見方を変えると、線路間に設けたレールにより列車を誘導できるということであり、脱線後の列車を大きく左右に振らせずに、地上構造物への激突や、転覆を防ぐ、「逸脱防止レール」が成り立つことを示唆するものである。
シミュレーション解析
・ 列車が脱線した後の挙動を計算機シミュレーションにより解析するモデリング方法を、基本的な平面モデルを例として提示した。この方法により今後の3次元モデルへの拡張も可能と考えられる。
・ 平面モデルによる計算より、車両、軌道の諸パラメータが脱線後の挙動に及ぼす影響の一端が明らかになった。
・ 脱線後、レールは車両のレール外への逸脱防止に効果がある場合があることが確認された。
・ 「鉄道版防護柵」の効果が確認され、自動車用防護柵と同レベルの仕様で成り立ち得る見通しが得られた。
 今後の課題としては、シミュレーションに関しては3次元モデルへの拡張等モデルの深度化、入力データ同定の深度化、模型実験に関しては相似則の明確化、連結器等車体各部の破壊荷重をコントロールできる模型の制作などがある。

参考文献
(1) 久保田博:鉄道重大事故の歴史、グランプリ出版、2000.6、p.167
(2) 山之内秀一郎:なぜ起こる鉄道事故、東京新聞出版局、2000.12、p.13、p.260
(3) 毎日新聞1988.12.5夕刊
(4) 朝日新聞1988.12.5夕刊
(5) 航空・鉄道事故調査委員会:鉄道事故調査報告書、2003-4B、2003.8
(6) 航空・鉄道事故調査委員会:鉄道事故調査報告書、2004-1、2004.4
(7) 宮本昌幸:ドイツ版新幹線ICE脱線事故の教訓、日本信頼性学会誌「信頼性」、Vol.23、No.6、2001.9、566
(8) 事故調査検討会:帝都高速度交通営団日比谷線中目黒駅構内列車脱線衝突に関する調査報告書、2000.10
(9)(社)日本道路協会:車両用防護柵標準仕様・同解説、1999.3