「レール・車輪断面形状」
筑波大学機能工学系教授 西岡 隆
1. 平成12年度における研究成果
土木学会構造工学委員会鉄道力学小委員会では委員会活動の一環として、レール・車輪断面形状プロジェクト研究会を結成し、平成11年12月から約1年間にわたって活動を行ってきた。研究会の目的は、鉄道における車輪とレール相互の関係を中心に据えて、それらの断面形状のあるべき姿を探求することであった。安全で滑らかな車輪の走行を考える上で、車輪とレールの接触を無視することはできない。走行中、車輪とレールの接触点が絶えず変動することを考えると、両者の断面形状は車両の運動や軌道に作用する力に影響を与えることは明らかである。研究会での検討内容は、単にレールと車輪の断面形状にとどまらず、直線路や曲線路におけるレール・車輪の運動学的相互作用や、接触状態の tribology、接触疲労や塑性流動などの材料学的考察、列車の通過に伴う経年断面形状変化や異常摩耗、レールの削正など多岐に及んでいる。
研究会は運輸省、鉄道事業者、大学関係者、製造メーカーなど、広くレールや車輪の専門家で構成され、全部で11回開催された。従来とかくそれぞれの分野にこだわりがちの軌道や車両の研究者が一堂に会して、相互の垣根を取り払って自由で闊達な意見の交換を行った。「レール・車輪断面形状」はその研究成果をとりまとめたものである。内容は以下の各章から成っている。
1) はじめに
本研究会の目的が鉄道車輪とレール相互の関係を踏まえて、車輪とレールの断面形状を検討することにあることを述べている。また、11回にわたって開催された研究会における検討内容を各回ごとに概述し、最後の研究会の構成員を紹介している。
2) レールの変遷と現状
我が国におけるレールの変遷を紹介している。明治39年に採用された 37kg/m レールに始まり、昭和3~6年に製作された 30、37、50kg/mレール、南満州鉄道株式会社が敷設した 60kgレール、第二次世界大戦以後開発された 50N、50T、60レールなど、我が国の代表的なレールの頭頂面形状が車輪踏面形状との関係においてどのような問題点を克服しながら、現在の形状に到ったかを述べている。ついで、疲労損傷や側摩耗、波状摩耗や腐食、電食などの問題に触れている。また、世界各国で現在用いられているレールの断面形状やレールの化学成分、機械的性質もあわせて紹介している。
3) 車輪踏面設計の現状
車輪の踏面形状はレール頭部形状と関連して、走行上重要な役割を担っている。車輪の踏面形状は、高速車両では蛇行動が生じない安定な走行が要求され、地下鉄車両などにおいては急曲線通過性能を決定する大きな因子である。車輪の長期走行においては踏面の摩耗が少ない形状が望ましく、また摩耗したとしても、踏面形状が初期形状から大きく変化しないで、当初の性能を維持することが要求される。さらに発生する振動、騒音も小さいことが望ましい。このように、鉄道車輪の踏面形状に要求される条件はいずれも走行性能の基本にかかわる問題であるがゆえに、最適な形状を求めることはかなり複雑な作業を伴い、設計方法としても今後さらに高度化することが望まれている。ここでは現状における鉄道車両用車輪の代表的な踏面形状、新規設計時に考慮すべき事項、および最近の設計事例を紹介することにより踏面形状設計の解説を行っている。最後に世界各国で用いられている円錐踏面、円弧踏面、円筒踏面など、さまざまな車輪断面形状を詳細に紹介している。
4) レール断面形状と車輪踏面形状の関係
これまでに我が国で用いられて来た 50PS、50N、50T、60レールを設計する際に、円錐踏面、円弧踏面、フランジ角などの車輪形状との関係においてどのような点に配慮されたかを述べている。また、レールの摩耗に対する削正形状について考察を加えると共に、レールの摩耗と軌間の測定法に関連した問題点など紹介している。
5) レール踏面に発生する摩耗と削正を前提としたレール断面の提案
レール頭部に発生する頭頂面シェリング、きしみ割れ、G.C.シェリング、側摩耗、波状摩耗などの異常摩耗を車輪の運動との関係において解説すると共に、経年変化による車輪とレールの摩耗の現状と対策を取り上げている。ついでこれらに対処するために、高速鉄道用重レールの採用、削正を前提としたレール断面形状の提案について紹介している。
6) 新しい車輪とレール形状へのアプローチ
レール側摩耗による形状変化に関する室内実験結果の紹介に続いて、三次元弾塑性有限要素法によるレールゲージコーナ部接触応力の数値解析結果、レールと車輪の接触応力に関する考察などを紹介している。また、与えられたレール・断面接触特性からレール頭部形状、車輪踏面形状を求める手法や独立車輪用踏面形状の開発に見られる新しい車輪とレール形状のあり方について模索している。
以上の検討を踏まえ、レール・車輪の断面形状に関する今後の展望を述べるとともに、曲線と直線におけるレールの区別、車輪踏面と一体として考えるレール断面、削正を前提としたレール断面の検討が今後の課題であるとしている。
相川 明(大分工業高等専門学校) | 阿部 和久(新潟大学) |
石田 誠(鉄道総合技術研究所:幹事) | 石原 広一郎(住友金属工業) |
磯村 修二郎(住友金属テクノロジー) | 岩野 克也(新日鐵) |
大竹 敏雄(東海旅客鉄道) | 蔭山 朝昭(東日本旅客鉄道) |
片岡 宏夫(鉄道総合技術研究所) | 片岡 譲(NKK) |
金 鷹(鉄道総合技術研究所) | 佐藤 栄作(鉄道総合技術研究所) |
佐藤 吉彦(日本機械保線) | 須田 義大(東京大学) |
瀧川 光伸(鉄道総合技術研究所) | 中西 正利(西日本旅客鉄道) |
西岡 隆(筑波大学:主査) | 曄道 佳明(上智大学) |
古田 勝(東京都) | 松本 陽(運輸省) |
宮本 昌幸(明星大学) | 陸 康思(住友金属テクノロジー) |
薮野 浩司(筑波大学) | 山村 佳成(住友金属工業) |